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あまりにお下品で奇抜な内容からサンダンス映画祭では途中退席する観客が現れるという話題を振りまいた「スイス・アーミー・マン」は賛否両論ありますが、表面上のイメージはお下劣の極みながら、そこで描かれるものはもっと深い人間の…
「スイス・アーミー・マン」は下品でお下劣だけど…
タイトルの「スイス・アーミー・マン」とは“十徳ナイフ”と呼ばれるもので、
さまざまな便利機能が備わった万能ナイフのことなんですが、
ゆえにスイスアーミーナイフならぬスイスアーミー死体ってわけです。
でもって、ダニエル・ラドクリフ演じる死体のメニーはただの死体ではなく、
無人島でも役立つ機能を備え持つ究極の万能死体なんですよね。
例えば、最初に発覚するのはオナラエンジン。
死体から放たれるオナラのパワーがまさかの推進力となって、
ジェットスキーのように海の上を走る姿は滑稽ながら、
「んなアホな」と突っ込ませない“画力”があるんですよ。
その後も放屁機能はいろいろと役立つもんで、
間近で火を放てば火炎放射機(バーナー)のように焚き火もできちゃうし、
口からガスを吐き出せば鉄砲玉のような勢いで石ころを吹き飛ばして獲物を撃ち落とすこともできちゃう。
雨が降れば体内に水を貯めることができるので水分には困らないし、
硬直した体で木を切ることもできるわけで、
無人島で孤独な自分の話し相手までしてくれるんだよ。
ビューティーこくぶが生っぽい放送で便利機能を解説。
万能死体の機能が素晴らしすぎます。
さらには…すぐに勃ちまくるナニが故郷の方角を示すコンパスにもなるから、
事あるごとにグラビア雑誌の写真を見せてはナニを勃※させることで、
無人島内で脱出に向かうルートを教えてくれるんだもん。
ある意味、生死を左右する最も重要な機能です。
作品内でもお下品でお下劣な下ネタが満載で、
一緒に見る相手を間違えれば目を合わせにくい空気が漂うこと確実。
表面上はお下品すぎてドン引きする一歩手前ですが、
その実、人間の内面にある人に見せたくない品性を描いたものであって、
見方によってはなかなかどうして、深い。
「スイス・アーミー・マン」で描かれる人間の品性
ポール・ダノ演じるハンクはいわゆる社会不適合者で、
無人島というのは一般社会で馴染めなかったハンクがたどり着いた場所、
つまり、文明社会とはかけ離れ、
対人コミュニケーションの必要のない世界ということなんじゃないかな。
無人島に漂流してからどれだけの日数を過ごしたかは分かりません。
でも、メニーと名付けた死体と出会ってからジェットスキーのように移動し、
たどり着いたところはまた奇しくも無人島でした。
最初はそれで良かった…と思う。
ただ、ひとりで過ごすうちに膨大する絶望感と圧倒的な孤独感に苛まれ、
この状況からどうにか逃れたいと考えるようになり、
ついには首吊り自殺まで…
その矢先、目の前に死体のメニーが現れたのは偶然ではなく、
すべてはハンクの頭の中にある妄想が具現化したものだったように思います。
自分が望んで閉じ込もった無人島という場所だったはずなのに、今では逆に苦しくて「助けてくれ」という心の声が…。
そう考えると、無人島も本当にそこで過ごしていたわけではなく、
そもそも劇中では時間の経過も示されてないので、
ハンクにとっては現実社会も無人島のような孤独感の中で過ごしてたってこと。
毎日バスで見かけるサラ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)を隠し撮りし、
その写真を携帯の待ち受けにしてるのだって、
告白する勇気もなく、ただ近くで遠くで見つめるのがハンクには精一杯。
それだけならディスコミュニケーションの草食男子ってだけで、
臆病風に吹かれながら社会に馴染めないオトコなんて珍しくもなんともない。
でも、ハンクが見せる人間の品性は人前に晒け出せない内面にあり、
その最たるものがオナラをすることなんだと思います。
自分ができないから、妄想世界が生み出したメニーが代わりにブーブーかます。
その数は人前で我慢してる数に比例するように大きく大量。
メニーの前で自分が女装してメニーの想いを実現させようとする件も、
実はサラに想いを伝えられないハンク自身を投影したもの。
これらは誰にだってある品性や性分そのもの。
誰に言われたわけでもない先天的な固定概念による行動であり、
知らず知らず身に付いた後天的な性分からくる臆病な性格であって、
うまく適応できないハンクは誰からともなく社会不適合者のレッテルを貼られ、
気がつけばそんな生きづらい世の中から逃げてるようなもの。
そんなハンクがメニーと過ごすことによって、
少しずつ人間の本質を取り戻していく過程を描いたリハビリ=社会復帰に至るまでの作品とも言えるんじゃないかな。
メニーにとっては一時的に現れたハンクの創作物だから、
その役割を終えた今となっては目的を完全に完遂したわけではないけど、
ひとつの使命は果たしたかな。
ハンクが人間として成長していく過程において必要不可欠で、
また必要になれば出てくるかもしれないけど、
ひとまずさよおなら。
映画「スイス・アーミー・マン」を全米メディアが絶賛!
- 「この映画こそマジックだ」(New York Times)
- 「本年度最高のラスト」(Chicago Sun-Times)
- 「比類なき映画。見逃し厳禁!」(Collider)
- 「美しく心に沁みる1本」(Total Film)
- 2016年サンダンス映画祭で最優秀監督賞
- シッチェスカタロニア国際映画祭で最優秀男優賞&最優秀長編映画賞受賞
- ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭で観客賞受賞
映画「スイス・アーミー・マン」の作品情報
原題:Swiss Army Man
監督:ダニエルズ(ダニエル・シャイナート&ダニエル・クワン)
公開日:2017年9月22日
上映時間:97分
製作国:2016年アメリカ
配給:ポニーキャニオン
全米興行収入:580万ドル
出演者:
ポール・ダノ(ハンク・トンプソン/無人島の漂流者)
ダニエル・ラドクリフ(メニー/死体)
メアリー・エリザベス・ウィンステッド(サラ・ジョンソン/ハンクが好きな女性)
CMディレクター出身のダニエル・シャイナートとダニエル・クワン(通称ダニエルズ)の二人にとって本作が長編映画デビュー作。
「スイス・アーミー・マン」の予告編
「スイス・アーミー・マン」のあらすじ
無人島に漂流したまま誰も助けに来ない日々を過ごす孤独な青年ハンク(ポール・ダノ)は絶望的な気分から首吊り自殺を図ろうとしたその瞬間、目の前の波打ち際に流れ着いている男性の姿を発見した。大急ぎで駆け寄って男に声をかけるが、男からの反応はなく、どうやら死体らしい。しかし、ハンクはその死体からオナラが出ていて、そのガスによって死体には浮力があると気づいた彼が死体にまたがるとジェットスキーのように海の上を移動することができた。それだけではなく、さまざまな便利機能を持つ死体にメニー(ダニエル・ラドクリフ)と名付けた彼はメニーを過ごしながら、何とか故郷に帰ろうとするが…
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