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この春AKBグループを卒業して女優業に専念する北原里英が挑んだ「サニー/32」は彼女の覚悟が垣間見える作品で、体中に戦慄が走るような神っぷりは衝撃的レベルのキタコレ。元ネタ以上に奇なる現代的なミステリーに唖然。
サニー/32に登場する現代的なキタコレたち
- 暴力という倒錯的な愛情表現しかできない男
- 自分は特別な存在でいつか才能が開花すると思いながら気がつけば年老いた男
- ネットの閲覧者の数で自己顕示欲を示すドローン少年
- セクシャルマイノリティを隠しながら生きることに苦しむ女
- 愛されたいだけなのに叶わないほど自分の容姿に強いコンプレックスを抱く女
- 美人局で仕方なくと言いながら本当はただSEXしたかっただけの若者
そんな彼らの抑圧された感情はどこにも行き場がなく、
むしろ持て余すくらいにベクトルはマイナスに向かってますが、
彼ら自身がは神として崇めるサニーによって魂が解き放たれるんですよね。
ま、慟哭する姿は茶番劇のように見えなくもないけど、
現代社会に渦巻くどん詰まりの閉塞感をまとめて成敗したような作品であり、
SHOWROOM的な仮想ライブ空間でユーザーからキタコレ=ktkrというネット用語やアスキー文字が飛び交うところも現代的。
それぞれが秘めたる胸の内は悩みが深いからこそ、
誰にもカミングアウトできずに心の奥深くにずっと隠してるわけだけど、
心の拠り所は彼らにとっての“神”であるサニーだったんです。
(画像は「長岡ロケなび」より引用)
SHOWROOMとは?
ニコニコ動画やUstreamのように映像を生配信するストリーミングサービス。人気アイドルやタレント、お笑い芸人、アーティスト等の配信を無料で視聴できます。特徴的なのはユーザーをアバターで可視化し、貢献度の高い配信者は売上金が分配される仕組みとなってます。
サニーは神なのか?
それは「犯罪史上もっとも可愛い殺人犯」と呼ばれた11歳の女の子。
2003年2月28日に北海道函館市柏野町で発生した衝撃的な事件の加害者でありながら、
あまりにかわいいルックスから“サニーたん”と呼ばれ、
日本中が騒然とする最中、ネット上では神格化されるんですよね。
事件後にネットで拡散された写真。
右手の指を3本、左手の指を2本立てる“サニーポーズ”を決めてます。
「気に入らないから殺しちゃった」
工作用のカッターナイフで容赦なく首を切りつける手口もさることながら、
シンプルな動機と大胆かつ残忍な11歳の行為というミスマッチ感はハンパない。
事件から14年経った今でも生きづらい現代社会は変わらず、
そんな中でもがき苦しむ彼らはいつか再び降臨するであろうサニーに救いを求め、
いつしか狂信的な信者に成り果てたわけですが、
自分にできないことをあっさりとやってのけたサニーの存在があるからこそ、
今の自分がかろうじて生きていられる。
この社会で心を擦り減らしながら生きていられる唯一無二の理由なんですよね。
でも、男二人は待てなかった。
サニーの居場所を突き止めた柏原(ピエール瀧)と小田(リリー・フランキー)はサニーこと藤井赤理(北原里英)を雪深い山麓の人の気配すらない廃屋に拉致監禁しちゃうんです。
こんなことさせるサニーは神ではなく悪魔かもしれない。
サニー自身、神のごとく人を救済したような気になってるけど、
誰もが胸の内で押し殺してる負の感情を引き出しただけ。
アメとムチならぬ暴力と抱擁というスタイルで、
強い痛みをもって目の前にある逃れられない現実を直視させ、
優しく包み込む母親のような愛情を示しながら本心を吐露させる。
これが“キタコレ”と呼ばれるサニー流のお悩み相談で、
救いの教祖様としてネット上でカウンセラーになったら笑止千万なわけさ。
「パチンコが止められないの」って悩みを打ち明ける主婦に、
「あなたが使う1発の銀の玉が北朝鮮では武器に変わる」
と説法をする姿は神というよりインチキ教祖みたいなもんですやん。
そう、もはや“サニー教”という名のカルト教団やで。
「私はサニーじゃない」
「サニーって誰?」
ずっとそう主張してきた赤理は極限状況に追い込まれて覚醒し、
14年前に世間を震撼させたサニーが大人になって降臨してきたかのごとく、
「みんなが私をサニーと呼ぶなら私はサニー」
と啖呵を切りながら、赤理とは表情も態度も一変して、
新たなるサニーが誕生しました。
キタコレー!
でも、所詮は担当クラスの生徒にさえ信頼がなく、
誰にも悩みを打ち明けてもらえないような中学校教師なんです。
明らかに様子がおかしくて、話を聴いてもらいたそうにしてる教え子の向井純子(蒼波純)にもそっぽを向かれるくらいだもんね。
目の前の人たちに救いを求められる自分の存在が赤理には心地よかったんでしょう。
藤井赤理ではなくサニーとして生きる覚悟を決めた瞬間のサニーはまさに神々しく、
その神っぷりは戦慄が走りそうなほど眩しく輝いてました。
元ネタは?
モチーフになってる元ネタは通称“ネバダ事件”です。
2004年6月1日に長崎県佐世保市の市立大久保小学校で発生した凄惨な事件。
11歳の女子児童が同級生で仲の良い女児をカッターナイフでめった刺しにして殺害したわけですが、加害者の女の子は当時ネット民から犯罪史上最も可愛い殺人鬼“ネバダたん”として神格化されました。
白石監督は以前からこの事件を映画化したかったようで、
脚本家の高橋泉と協力しながらオリジナルストーリーを作り上げたとか。
ゆえに元ネタ以上に奇々怪々なミステリーでもあります。
だって、メディアで報道される以上のことは関係者以外分かりませんが、
この作品には被害者のお兄さんが出てきて、
殺された妹の敵討ちとしてサニーに復讐しようとします。
でも、ネバダ事件では被害者のお兄さんにはそんな気持ちはないらしく、
加害者本人の犯行動機にしても憶測であって真意は不明。
“ネバダたん”を偶像化する人たちにしたって、
この作品ではあまりにエキセントリックにデフォルメされてるから、
後先考えない人たちの暴走にしか見えないもん。
ただ、加害者であるサニーの心理にも言及してるだけあって、
フィクションとはいえネバダ事件のその後を想像させられるような内容はなかなか衝撃的で面白かったです。
目を引く女優
スクリーンに釘付けとなった奥村佳恵の眼力が凄まじい。
蜷川幸雄に見出されて女優デビューした彼女は舞台を中心に活躍。
長塚圭史、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、白井晃、野田秀樹が演出する舞台作品に次々に出演してるというだけでもすごいキャリア。
ドラマでは千原ジュニア主演の「新・ミナミの帝王」シリーズにレギュラー出演。
細身の長身で惹きつけられる雰囲気を持ってるだけに、
北原里英の覚悟も奥村佳恵の眼力を前にしたら少し霞んで見えちゃいました。
「ホテル・ハイビスカス」で主演デビューした蔵下穂波のぽっちゃり感には愕然。
当時8歳で現在24歳…いつどこでどうなったんだろう?
この作品では“隠れ肥満”というより見るからに肥満ですが、
クレジット見るまで最近需要のあるぽっちゃり体型の女優かと思ってました。
でも、僕が気付かなかっただけで、
映画「ビリギャル」とか連続ドラマ小説「あまちゃん」にも出てたんですね。
これらの作品と比較すると体型は今とそんなに変わってなかった…。
蒼波純は仲良しグループからハブられて落ち込む中学生役ですが、
もともと“笑わないアイドル”として知られるくらい笑顔を見せないので、
クールな振る舞いの内側に秘めたる狂気を漂わせる無表情が危うい。
本当の蒼波純は美しい顔立ちした透明感ある美少女で、
玉城ティナや稲村亜美を輩出したアイドルオーディション「ミスiD2014」でグランプリを受賞するような清楚系アイドルなんですよね。
橋本愛とダブル主演を務めた映画「ワンダフルワールドエンド」でも印象的でした。
そんな3人の女優たちと対峙する北原里英もバリバリのアイドルですが、
アイドルを卒業して女優業に専念するための覚悟は十分。
一皮剥けてもっと演技力が身につけば高いポテンシャルを発揮できるかな。
なんたってピエール瀧とリリー・フランキーに好き放題やりたい放題にいたぶられる姿は正気の沙汰ではないもんね。
舐める、蹴る、殴る…やりすぎ。
(画像はザテレビジョンから引用)
会いたかった~会いたかった~会いたかった~YES♪(ネタバレ)
頭から全身まで半透明のゴミ袋を被せられて状況は掴めず、
手足はロープで縛られて身動きできず、
口には猿ぐつわで声も悲鳴も上げられない。
拉致監禁された赤理がこの状況から解放されるのが最初の見せ場。
小田がゴミ袋を少し破って赤理の顔を覗き込む瞬間に浮かべる恍惚の表情。
そして、猿ぐつわを外す瞬間の柏原の不気味な笑み。
「会いたかったよ、サニー」
14年間も待ち焦がれたサニーと対面できるのが嬉しくないわけがなく、
しかも、イニシアチブは自分たちにあるから、
殴って殴って殴り倒す暴力で絶対服従させようとするんですよね。
それが柏原の倒錯した愛情表現でもあるわけですが、
鼻や口唇から滴る出血を愛おしく舐める姿はさすがの凶悪っぷり。
赤理は逃げ出すために監禁場所の廃屋の2階から飛び降りて足抜きの悪い豪雪の中を必死で走りますが、ようやく道路に出て車を見つけ、安堵したのも束の間でした。
車から出てきたのはサニーの信奉者ばかり。
第二のサニーあらわる!(ネタバレあり)
自分はサニーでもないのにサニーのような気がしてきて、
いや、むしろサニーとして崇められる方が心地よくなってきたところで、
ネット上でインチキ教祖様のように悩める人々を救済していた赤理の前に突然、
「本物のサニーは私」
と名乗る“第二のサニー”が現れました。
ネットを通して圧倒的なリアリティーを見せつけるように、
自分の指を1本、バキっと折れそうな強さで逆方向に反り曲げるんです。
ホラー映画が全然平気な僕でもそのまま直視するのは耐え難く、
「痛い痛い痛い」って思わず声が出るほどの痛みを感じるですが、
この痛みこそサニーが長年ずっと味わってきた無間ループの痛みなんですよね。
地獄に落ちたとしても極限の苦しみは死後も絶えることなく続くのに、
すでに現世で何回も何十回も骨を折るような痛みとか苦しみを味わいながら、
それでも決して赦されることのない殺生罪。
死んでも地獄
生きていても地獄…
何をしたら赦してもらえるかなんて大人は誰も教えてくれない。
罪を償う方法だって神様が教えてくれるわけではない。
ただ悶々と生きるしかない。
現実から逃れられない状況は逃げられる偽物サニーには解るまい。
「同級生を殺してしまった心境」なんて何万回聞かれても自分にも分からない。
絶え間なく続く痛みとひたすら向き合っていくしかない。
柏原や小田は「どっちがサニーかなんてどうでもいい」と片づけるけど、
本物と偽物では大違いということがハッキリする場面。
門脇麦の鬼気迫る演技がまた本物と偽物の実力差も浮き彫りにしちゃった。
痛々しい門脇麦と薄っぺらい北原里英がネット越しに真正面から向き合いますが、
少なくとも自ら自分の指の骨を折る覚悟なんて偽物にはないですからね。
ここはゾクゾクするようなインパクトがあったなー。
直視できない痛みが伝わってくるもん。
「サニー/32」の作品情報
監督:白石和彌
脚本:高橋泉
スーパーバイザー:秋元康
音楽:牛尾憲輔
主題歌:牛尾憲輔・田渕ひさ子「pray」
製作国:2018年日本
上映時間:110分
公開日:2018年2月17日
配給:日活
出演者:
北原里英(藤井赤理/中学教師)
ピエール瀧(柏原勲/サニーを神と崇める信者)
リリー・フランキー(小田武/サニーを神と崇める信者)
門脇麦(二人目のサニー)
音尾琢真(春樹先輩)
駿河太郎(田辺康博/赤理の同僚で中学教師)
蒼波純(向井純子/赤理の教え子)
山崎銀之丞
カトウシンスケ
奥村佳恵
大津尋葵
加部亜門
松永拓野
蔵下穂波
沖田修一
沖田修一といえば「南極料理人」や「横道世之介」「モヒカン故郷へ帰る」を手がけた映画監督ですが、劇中で流れるサニー事件解説の動画に紛れ込んでる二人の中年男性は白石和彌監督と沖田修一監督らしい。
さらにはその動画のBGM「もっともかわいいマーダーはサニー」というラップ調の曲を歌っているのは白石監督が命名した“沖田修一とアモーレスターズ”という音楽ユニットで、作詞は脚本の高橋泉、作曲は劇伴の牛尾憲輔(agraph)が担当。
白石監督は「映画の中で起こるサニー事件が安易にネット上で消費され、遊ばれている感じを出したくて脚本段階から盛り込みました」とコメントしてますが、まさに現代的で狙い通りの演出ですね。
音尾琢真は白石組常連ながら、今回は出演カットが短いから特別出演!?
大泉洋、安田顕、戸次重幸らが所属する演劇ユニットTEAM NACSのメンバー。
白石監督の次回作「孤狼の血」にもヤクザな役で出演(同じく白石組常連のピエール瀧と駿河太郎も出演)しますが、キムタクと二宮和也が共演する話題作「検察側の罪人」(「関ヶ原」の原田眞人監督作品/2018年8月24日公開予定)にも出演。
音楽担当の牛尾憲輔(agraph)は昨年公開された山田尚子監督の「聲の形」や2014年公開の湯浅政明監督作品「ピンポン THE ANIMATION」も担当したエレクトロニカ期待のミュージシャン。主題歌は牛尾憲輔と元ナンバーガールの田渕ひさ子が共演。
「サニー 32」のあらすじ
仕事では生徒からそっぽを向かれ、私生活ではストーカーに付きまとわれる中学校教師の藤井赤理(北原里英)は24歳の誕生日を迎えたその日、突然何者かに拉致されてしまう。犯人は柏原(ピエール瀧)と小田(リリー・フランキー)と名乗る男二人組だったが、雪深い山麓の廃屋に彼女を監禁した動機は「犯罪史上最も可愛い殺人犯」と呼ばれた少女“サニー”と会うためだった。14年前に発生した11歳の女子児童による衝撃的な同級生殺害事件はネット上で神格化され、次々と狂信的な信者を生み出していくが、サニーとして連れ去られた赤理は二人から陵辱され、やがて正気を失っていきながらも形勢逆転の大博打に打って出た…。
「サニー 32」の予告篇
衝撃の結末は?(ネタバレあり)
本物のサニーの登場で動揺する信者たち。
どんどん物語が散らかって全員が頭おかしくなっていく。
そして、死者が続出する始末。
挙げ句は職務質問してきた警察官から銃を奪い取って射殺。
一人また一人…と急スピードで死んでいく。
その一方で、蒼波純演じる教え子の向井純子はサニーと同じようにカラオケボックスで自分を仲間外れにした友達をカッターナイフで殺そうとしますが、その凶行を阻止したいのに赤理の声は届かず…
この時点で生存者はドローン少年と被害者の兄、そして赤理。
もうどこにも行き場のない追いつめられた赤理はそれでも天井からドローンにぶら下がって向井のもとに駆けつけようとしますが、
タケコプターのようにドローンで空中移動できるわけもなく、すぐさま落下。
でも、次の瞬間なぜかカラオケボックスにワープした赤理の前には凶行を踏み止まった向井の姿がありました。
これはドローンから落下したことで頭を強打した彼女が夢見た幻想なんだろうか?
物理的には到底間に合わないので、向井が自分の意志で踏み止まったのか?
観客の想像に委ねられるところかもしれませんね。
本物のサニーが今後一生味わい続ける地獄の苦しみは永遠。
偽物のサニーは「あなたのような人間が二度と現れないように」と願うのみ。
できることがあるとしたら、それしかない。
得意技の「キタコレ」なんてもう誰にも通用しない。
「加害者だって苦しんでるんだ」と言えば擁護と受け取られかねませんが、
個人的には“性善説”を信じ、生まれつきの悪人はいないと考えるてる方なので、
現実から逃げることなく戦っていきたいと思うわけです。
主なロケ地は新潟県長岡市
(ロケ地マップは長岡ロケなびより引用)
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