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映画「名前のない女たち」は刹那に生きる女たちの希望と絶望を描いた秀逸な人間ドラマ

名前のない女たち

 

大人のビデオ業界で“企画女優”として仕事する500人以上の女性たちの生きざまを取材した中村淳彦氏の同名ノンフィクションベストセラーを原案とする映画。街角でスカウトされた地味なOLが命じられるままに演じたコスプレ女優として思わぬ人気を博していくが…。

 

 

女性の性と生を綴ったノンフィクション映画

 

 

1年間で約2万タイトル(1日約50本~100本)の新作が世に出て、
そこで働く女性は1万人を超えるといわれるのがアダルトビデオ(以下AV)業界です。
ジャンルは大きく分けて企画女優物と単体女優物の2種類あるんですね。

 

 

 

同じAV業界でも現場で働く女性の置かれる立場はまったく異なる世界なんです。

 

 

 

名前のない女たち

 

 

 

単体女優=破格のギャラで契約したメーカー専属の女優
企画単体女優=いろんなメーカーで多くの作品に出演する過激な撮影も厭わない女優
企画女優=名前を出さずにメーカーの企画に応じた撮影をこなす女優

 

 

 

使い捨てにされる名前のない女たち

 

 

この作品は街中でスカウトマンから偶然声をかけられたことで企画物のAVに出演するようになった、どこにでもいるようなごくごくフツーの平凡で地味な22歳のOLの人生が大きく変わっていく様をドキュメントのように描いてるんですね。

 

 

原作はAV専門誌で9年間に渡って連載された中村淳彦氏の企画女優へのインタビューシリーズをまとめた同名のノンフィクションなんですが、まずは“企画女優”と呼ばれる女性の立ち位置が分からないと、この作品で描かれる世界特有の“名前のない女”の意味が理解できないかもしれません。

 

 

何しろ推定1,000億円といわれる市場規模にあって、
AV女優として働く女性の数は年間でおよそ1万人以上と言われてます。

 

 

事務所に所属しない女優を含めると3万人から4万人近くいるという説もありますが、
そのうちの95%が自分の名前が表に出ることのないまま、
メーカーからは使い捨ての消耗品扱いで、

 

 

 

陵辱プレイでも何でもありの要求はどんどん過激にエスカレートしていくばかりなのに、
出演者に「NG」とは言わせずにトコトンこき使って、
それでも売れなくなったらバッサリと切り捨てられるのが企画女優の悲しい現実なんですよね。

 

 

まれにコアなファンからの人気が出て企画から単体女優に昇格する女性もいますが、
ほとんどがあっさりとゴミのようにポイ捨てされちゃいます。

 

 

単体女優であれば有名になって芸能界に転身し、
タレントとしてさらなる成功を掴んだ人(飯島愛とかみ※ろとか及○奈*etc)も過去には少なからずいますが、

圧倒的大多数が誰にも知られることがないままに、手取りたった数万円の格安ギャラで女としての自分の体と性を商品として切り売りしてるわけで、そんな過酷な現実があると分かっていてもこの業界に身を投じる女性が後を絶たないのはなぜなのか…。
この作品ではその、ほんの一面を垣間見ることができました。

 

 

 

名前のない女たちのルルと綾乃

 

 

 

生きてるふりするの、やめた。

 

 

AV女優なんて自分の身近にいるような感覚はまったくありませんが、
でも、きっと自分が知らないだけで、
現実的には意外に身近なところに存在したりするんでしょうね。

 

 

母親の愛情を感じることないままに生きてきた主人公の小倉純子(安井紀絵)
ごくフツーの平凡で地味な22歳のOLですが、

 

 

「自分なんて生まれてこなきゃよかったんだ」

 

 

と日々思いながら、
家庭でも職場でもどこでも自分の居場所なんて分からないでいましたが、
ある日偶然声をかけてきたスカウトマンの、

 

 

「夢、ある?」
「人生楽しい?」
「もしも自分じゃない誰かになれたら面白いと思わない?」

 

 

という言葉が彼女を変えました。
セーラー服を着て青色のウィッグをつけたコスプレ姿で企画AVに出演したことで、
「自分ではない自分」宛てにファンレターが届くんですが、

 

 

そんな些細なことに感動し、
誉められたことなんてなかった自分が現場では監督にも所属事務所の社長にも誉めてもらえたことで、

 

 

この世界では「自分は必要とされてる」ということを実感し、
自分の存在さえ自ら否定してきた彼女は「人生なんて自分の行動次第でどうにでもなる」とまで思えるようになるんですよ。

 

 

 

名前のない女たちのOL

 

 

一昔前ならそれこそAVにしてもキャバ嬢にしてもストリッパーにしても、
「借金が返済できない」とか「お金に困って…」「男に貢ぐため…」なんて相場が決まっていて、今なおそういう理由で性を売り物にする業界に足を踏み入れる女性は少なくないと思いますが、

 

 

彼女のように「今の自分が大嫌い」で、
心の奥底にそんな大嫌いな自分を「ほんの少しでも変えたい」という願望があったとしたら、そこに求めてるのは割り切ったお金じゃなく、

 

 

「自分は生きてるんだ」という“生”の実感と、
「生きていいんだ」という自己の肯定なのかもしれません。

 

 

今の時代、少なからずそういう理由があって、
文字通り自分の裸をさらけ出す女性が増えてるのは事実のような気がします。
ま、それもスカウトマンからしたら思うツボなんだろうけどね。

 

 

 

名前のない女たちのスカウト

 

 

 

本当の自分のアイデンティティー

 

 

でも、現実は残酷で皮肉なもので、
AV女優としての自分は居心地がよくて楽しくて
それはある意味現実逃避であっても本来なりたかった自分の姿でした。

 

 

ようやく人気が出て単体女優にまで昇格しても、
小倉純子が演じる“桜沢ルル”というAV女優は自分であって自分ではない存在=あくまで純子が演じるオタク系女子という作られたキャラクターです。

 

 

じゃあ、桜沢ルルは誰なのかといえば本当の自分のアイデンティティーでありながら、“素顔”は誰にも決して見せることのない偽りの自分=小倉純子そのもの。

 

 

でも…その実、

本当の自分のアイデンティティーは彼女自身にもよく分かってないんです。

 

 

だからこそ、
現場に襲いかかってきたストーカーに向けた、

 

 

「全部本当のアンタでしょ」

 

 

という彼女の言葉はきっと、
自分自身にも向けた言葉なんでしょうね。

 

 

ルルではない、
素顔の純子と綾乃が全裸になって笑い合い、
缶ビールをかけ合いながらすべての感情をさらけ出すクライマックスは不器用に生きることしかできない二人の心の内なる叫びのよう…。

 

 

生きてるふりするのを止めた瞬間でもあるかな。

 

 

 

名前のない女たちのクライマックス

 

 

自分の殻に閉じ込もって、
他人と上手く付き合うことができなかった彼女にとって、
まっすぐに自分の心を綾乃にぶつけることができたのは前に踏み出す大きな一歩になりそう。

 

 

そして、閉塞感のある現代社会でいつの間にか気が付けば片足を泥沼に突っ込んだみたいに抜けられなくなってしまい、身も心もギリギリまで擦り減らしながら生きてきた綾乃は消耗品として使い捨てにされようが…いや、そうなることが分かっていても、

 

 

「私たちは“もの”じゃない!」
「生きてんだよ!」

 

 

 

と怒りの感情を激しく剥き出しにしましたが、
「生きてる」という生の実感が希薄になったことで、
名もなき女としてこの業界で刹那的に生きる道を選ぶのかもしれません。

 

 

 

名前のない女たち綾乃

 

 

 

ピンク映画界の四天王と侮るなかれ

 

 

サトウトシキ、佐野和宏、瀬々敬久とともに、
「ピンク四天王」と称される佐藤寿保監督がAV業界の裏側を描いた作品なだけに、
見る前から偏見を持ってしまうかもしれませんが、
それは実にもったいない。

 

 

「告白」とか「嫌われ松子の一生」で有名になった中島哲也監督の代表作で、

深田恭子と土屋アンナ主演の「下妻物語」のAV業界版で、

元ヤンとロリータの友情物語を元ヤンと孤独なOLという設定に置き換えただけなんですよね。
クライマックスに演技ではないリアルなドキュメント性を感じました。

 

 

 

「名前のない女たち」の作品情報

 

 

原作:中村淳彦(宝島社刊)
監督:佐藤寿保
主題歌:戸川純「バージンブルース」
公開日:2010年9月4日
上映時間:105分
製作国:2010年日本
配給:ゼアリズエンタープライズ/マコトヤ
出演者:
安井紀絵(小倉純子役/桜沢ルル)
佐久間麻由(栗原綾乃役/ルルが慕う事務所の先輩)
新井浩文(裕也役/スカウトマン)
渡辺真起子(小倉恵子役/純子の母親)
木口亜矢(青木リエ役/単体女優)
鎌田奈津美(春奈役/純子の同僚OL)
河合龍之介(隆役/純子の恋人)
草野イニ(三宅役/ストーカー)
鳥肌実(井川役/芸能事務所社長)

 

 

「名前のない女たち」のあらすじ

 

 

これといって取り柄がなく、ごくごく平凡で地味に生きてきた22歳のOLの純子(安井紀絵)はずっと母親(渡辺真起子)の顔色をうかがいながら自分の居場所を探していた。ある日、渋谷でスカウトマンから「夢ある?」「もしも自分じゃない誰かになれたら面白いと思わない?」「人生なんて自分次第でどうにでも変えることができるよ」と声をかけられた彼女はその言葉に心を突き動かされ、スカウトマンに言われるがままにセーラー服を着て青色のウィッグをつけたアニメオタク系のコスプレ女優“桜沢ルル”としてAVに出演することになったが、人気が出るにつれて自分を見失っていくようなルルが危なっかしくて見ていられなくなった事務所の先輩で元レディース総長の綾乃(佐久間麻由)は何かと彼女に世話を焼いていた。そんな最中、人気がなくなれば使い捨てにされるこの業界で、一人の女優が自殺したという報が二人のもとに届いた…。

 

 

「名前のない女たち」の予告編

 

 

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[speech_bubble type=”rtail” subtype=”L1″ icon=”man1.png” name=”HIRO”]来年2月に同じ原作者のノンフィクション最新刊が映画公開されるので、当時のレビューに加筆修正してアップしました。[/speech_bubble]

 

 

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